2015年2月19日木曜日

【ネタバレ】かぐや姫の物語

制作年度:
制作国:日本

個人評価:5/5

高畑勲監督の長編アニメーション。
高畑さんの映画は「平成狸合戦ぽんぽこ」を子供の頃に見て以来、
子どもの自分にはどうもとっつき難い気がして
テレビでやっててもあんまり見ることはなかったのだが、
これはスゴイ作品だと思う。

高畑さんの脚色もあるのだとは思うが、
1000年以上昔に作られたかぐや姫の話が、
こんなに現代の自分の心を震わせるとは思わなかった。
こんなSFで不思議な話を、よく本屋も無い大昔の人間が思い付いたもんだ。

映像は非常に独特である。
筆や鉛筆で描いたような素朴な絵柄がアニメーションする。
背景も非常に綺麗に書かれているが、
敢えてきっちりした絵になっていない感じ。
絵巻物の躍動感ある絵をそのまま動かしたような独特のアニメだ。
キャラクターも結構ディフォルメされていて漫画的に表現されている。

この感じ、僕の世代の人ならよく見ていたであろう
「マンガ 日本昔話」を彷彿とさせる演出だ。
アレをスタジオジブリの技術と高畑さんの演出で
最高に洗練させるとこうなるのかーと感慨深い。

人物や動植物の動きの細かさや、服装や道具のディテール等、
人の生きている環境の表現が
高畑さんらしくしつこいくらい丁寧に作られていて、
一つの芸術作品のような感じである。

アニメ映画ではあるがどう見ても大人向けの内容で、
かぐや姫の視線を通して、「生きる」ってどういうことなのか
を考えされられるような話だった。

かぐや姫は月に帰らなければならないが、
僕は死ぬまで生き続けることができる、
それって幸せなことなんだなあ と思わされた。

あと、地井さんの演技がすごくいい。
他の人もみんないいが、
地井さん演ずる翁の優しさと愚かさが僕は大好きだ。




【ここからネタバレ】
物理的にも精神的にもゆらぎの無い、おそらく天国である月で、
ゆらぎに溢れた地球で生きることに憧れたこと、
ゆらいでしまったこと、それがかぐや姫の罪ではないだろうか。

そして、その地球に転生させ、
嬉しいこと楽しいことと同時に辛いこと苦しいこと、
つまりゆらぎを体験することが、月の王が降した罰のように思えた。

おそらく、転生の際の約束は
「この世界にいたくない、死にたい」と思ってしまったら終わり
というものなのだろう。


転生するにあたって、
月の王は人の暮らしをするにあたって、誰もが望むものを全て与えた。
美しい容姿、賢い頭脳、健康な身体、富、ちょっとした超常の力まである。
これが結果的に翁の男親らしい暴走を招き、
かぐや姫は翁の思い描く「幸せ」の押しつけに悩むことになるのだが、
月の王はこうなることを見越して、
意地悪的にあらゆるものを与えたわけではないと思う。

なぜならかぐや姫は翁の暴走を止めることもできたのだ。
翁は基本的にはかぐや姫の幸せしか願っていない善良の人に思えた。
かぐや姫がどんな行動をとっても、翁は決して叱ったりしなかったことから、そう感じられた。
かぐや姫が翁の押しつけを望まないことをはっきり伝えれば、
おそらく翁もそれ以上の無理強いはしなかったであろう。
つまり、厭らしい貴族生活はかぐや姫が自分で選んでしまった結果でもある。
捨丸達と山の暮らしを続ける選択肢もあったのだ。

とはいえ、あんなに嬉しそうな翁に水を差すようなことは
誰だって言い出しづらいに決まっている。
なんたって相手は自分のために喜んでくれているのだから。
結局、拒むことだできず翁の敷いたレールに乗ってしまうことになる。
こういった描写がどこか現代的で、かぐや姫に感情移入しやすくしている気がする。

また一方で、貴族としての生活を割り切って楽しむこともできたと思われる。
かぐや姫自身、最初に屋敷ときれいな着物を見た時に大いにはしゃいでいたし、
求婚してきた貴族達も、みな貴族らしく歪んでいたが一途ではあった。
なによりあの猫っぽい侍女はいつも楽しそうだった。
あの侍女のように軽やかに生きていれば、貴族の世界でも楽しく生きられたかもしれない。

かぐや姫が幼い頃の思い出にこだわった結果、
自分の生きている世界を冷たく、辛いものにしてしまったとも言える。

さらに言うと、仮に翁の申し出を拒んで捨丸達との山の生活を送ったとしても、
必ずしも幸せになっていたとは限らないのだ。
よく批判されているところに、捨丸が妻子がいるにも関わらず、
かぐや姫と一緒に「逃げよう」と提案するシーンがある。
不倫だ何だということはどうでもよくて、
これが現実の象徴のように僕は思う。
捨丸だって完璧ではないのだ。一時の衝動でコロッと変わってしまうこともあるのだ。

おそらく山の暮らしを続けても、いつかは同じように
「この世界にいたくない」と思う時が来るのではないだろうか。
完璧な存在である月の王はそれを知っていて
かぐや姫を地球に降ろしたように僕は思う。
かぐや姫は生きることを楽しむために地球へ行ったのに、
様々な思考に支配されて、いつしか楽しむことを忘れてしまった。
かぐや姫は可愛そうな存在である。

生きている間は山も谷もあるから、
本気度はともかく、「死にたい」と願うことは幾度もあるだろう。
僕らはかぐや姫じゃないので、願ったところで実行に移さなければ、
生きることを続けることができる。
どういう状況でも、楽しもうと思えば楽しめるものである。
生きるために生まれてきたのであれば、生きることを楽しんだ方がいいよ
そういうメッセージをこの作品から受けた気がした。

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